P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

2008年のアメリカ大統領選はブッシュのおかげもあって、というかブッシュのおかげで民主党有利と見られているわけなのだけど、共和党に有利、というかひどく不利ではない要素ならいくつかある。外交面でもイラクの治安はアメリカ軍の増派もあって少しはましになり、アメリカ兵の死傷者も一応は減ったらしいし、経済面でも2000年の4%から2003年の6%にまであがった失業率が2007年は4.6%にまで下がった。まあ、サブプライム危機による景気後退の可能性は言うまでもなく、イラクでもまた大きい自爆テロがあったし、外交・経済はブッシュ政権が大きく誇れるような状態ではないが、さりとて現状は壊滅的とまでいうほどではない。その2要素は今回の大統領選にどのように影響を影響を及ぼすだろうか?まだ11月の選挙まで9ヶ月もあるが、少なくとも現状ではまだ共和党に有利に働くのではないかという選挙モデルの予測がアリゾナ大学のケンワーシー(Kenworthy)教授のブログで紹介されていた。
これはダグラス・ヒッブス(Douglas Hibbs)という別の教授の「パンと平和」(Bread and Peace)モデルというアメリカ大統領選についてのモデルだそうだ。選挙までの3年半の個人可処分所得成長率の加重平均を説明変数、与党・野党の得票数の比率を被説明変数としたモデル。1952年から2004年までの回帰の結果と実際の選挙結果を見る限り、たしかに選挙結果によくフィットしているようだ(横軸が可処分所得の成長率、縦軸が得票数の比率、選挙年は実際の結果)。
このモデルからすると、パン(可処分所得の成長率)が大統領選にとって非常に重要であるという結果がでてくる(まあ、当たり前といえば当たり前の結果だが、しかしどの程度重要かはこういう分析をやってみないとわからないので)。ただ1952年と1968年の実績と予測値は大きくずれてる。これが「平和」の要素で、つまり1952年は朝鮮戦争、1968年はベトナム戦争の為に与党(どっちも民主党だった)が選挙に負ける事になったのではないか、ということ。「パン」だけなら、どちらも与党が勝っていたはずなのに、「平和」の要素が「パン」を上回って与党が負けてしまったわけだ。まさに、人はパンのみに生きるにあらず。
で、このモデルと2007年末までのデータで2008年の大統領選を予測してみると、もし「パン」の要素が大きければぎりぎり共和党が勝つんじゃないか、とケンワーシー教授。とはいえ、選挙までまだ9ヶ月もあるので、教授自身が色々とこの予測の問題点を指摘している。景気後退が予測されているし、小康状態とはいえイラクでの戦いは続いている。もし景気後退が本格化すれば「パン」の要素から共和党は負けるだろうし、景気後退がなくてももしイラクで多くのアメリカ兵の死傷者がでれば「パン」が「平和」に圧倒されることになるかもしれない。あと、モデル自体の予測精度への懸念もあるそうだ。つまり、80年代以降の所得格差の拡大により国全体での可処分所得の増大が必ずしも各国民の可処分所得の増大にストレートにはつながらなくなった。これはモデルの説明力を落としているのではないかという懸念。
要するに結論は、選挙結果はまだわかりません、なのだが、ただ共和党が一方的に不利とは必ずしもいえないようだ。