P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

金融市場規制と金融危機の影響

ハーヴァードのダニー・ロデリック教授は国際経済学および開発経済学の人ですが、グローバライゼーションには結構批判的です。それどころか、財の自由貿易にも批判的な事を言ったりします。金融面での自由化・グローバライゼーションに批判的な経済学者は結構いますが、財の自由貿易に批判的な国際経済学はそうそういないでしょう(バグワッティも金融に関しては批判的だったと思いますが、自由貿易を批判したりはしませんし)。もっともロデリックの言っている事は、国際経済学の教科書と現実の自由貿易を取り違えるなという事ですが(というか、そう理解しています)。たとえば教科書は、自由貿易推進の論拠として各国は自由貿易から利益を受ける事ができ、さらにその利益は(必要な再分配機構を整えることで理論的には)国内の全市民が自由貿易から利益を受けるのに十分なほど大きいといっています。ですが、その再分配機構が現実の自由貿易政策の策定の中でリップサービス以上のものを配慮を与えられる事はまずないでしょう。にもかかわらず、国際経済学を知っていると、自由貿易から各国は利益をえられるとつい言ってしまいます。経済学は大抵の場合、方法論的個人主義に基づいているのですが、時々個人を無視しますよね。
とにかくそのロデリックがタイのバンコク金融危機について(?)のカンファレンスに出席して、そこで興味を持った論文について自身のブログに書いてましたので訳しておきます。

金融のグローバライゼーションに抵抗できるか? ダニー・ロデリック 2008年11月7日
Yes you can. そしてアジアはそうしてきている。私はBank of Thailandのカンファレンスでバンコクにいるのだが、(Jose Antonio Ocampo, Raghu Rajan、そしてArvind Subramanianなど)多くの興味を引かれる報告の中でも、国際決済銀行(BIS)のRobert McCauleyとGuonan Maによる"Resisting financial globalization in Asia"という報告は優れた論文であった。論文は4つの国(中国、インド、韓国、タイ)による異なる規模での「金融の歯車に砂を投じる」(訳注:金融市場に非効率を導入する)政策について記述している。面白い事に、もっとも大きな抵抗を導入した国が、この危機による影響が最も小さかった国であった。
論文は次のような事を述べている。

・金融グローバライゼーションへのアジア型の抵抗は、国内の銀行システムでの外国銀行の役割を制限したり、外貨や通貨、債券、証券市場での国境を越えた裁定取引を規制するという形をとってきた。
・価格と取引量のデータによると、もっともグローバライゼーションを規制していたのは中国で、その後、距離をおいてインド、さらにタイ、韓国と続く。
・最近の危機により受けた影響の大きさはこの順番を(逆の順序で)ほぼ正確になぞっている。特に、韓国は、混乱の発生前に(大規模な外貨準備など)危機をやり過ごす様々な準備をしていたのにも関わらず、最も大きな痛手を被った。

ChinnとIto(PDF)からと、あと全然別のデータソース(資本収支に関するIMFのインデックス)を使った下の図表も東・南東アジアでの同様の大まかな傾向を示している。

アジア金融危機の後、これらの国々は国際金融市場への非常に高い統合からの離脱を経験した。そのため彼らは今、金融面でラテンアメリカ諸国よりグローバライゼーション化の進展がずっと低い。
さて、もしあなたがこんな事はただの学問的な事で、実際に現場で起こっている事とは関係がないと思うのなら、台湾の中央銀行総裁との会話をお勧めする。政策的に資本収支を管理する事が出来るかどうかに関するどんな疑いもすぐに消えてしまうだろう。