P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

QE2について  グレッグ・マンキュー

このあいだ、連銀の量的緩和に反対する経済学者を含む保守派の人達による連銀への公開書簡(邦訳)が出されましたが、それに保守派の経済学者であるマンキューは署名をしませんでした。またそれ以外でもマンキューは特にQE2に触れていないので、たとえばクルーグマンなどから「マンキューはどうなんだよ」とつっこまれたりしていました*1。ですがようやくそのマンキューが量的緩和に反対ではないという意見を表明しましたので、訳しておきます。政治的な理由から量的緩和の危険性も強調されてはいますが、基本的にはクルーグマンと同じ、良いことだけど大して効果は期待できないという立場ですね。


QE2 グレッグ・マンキュー 2010年11月17日
連銀の今回の量的緩和についての私の意見を何人かから尋ねられた。とくに、最近の連銀の行動に批判的な保守派経済学者達による公開書簡に私が署名しなかった事についてだ。
私の見解は、QE2はまあまあ良いアイデアだというものだ。「良いアイデア」というのは、ベン・バーナンキ同様、今のところ、激しいインフレよりも日本スタイルのデフレと停滞について私が心配しているからだ。長期の実質利子率をそうでない場合よりも下げることにより、QE2は総需要の拡大を助けるうる。私が「まあまあ」という修正をつけているのは、そういった行動が非常に大きな効果を持つとは思えないからだ。
さらに、私にはいくつかの潜在的な問題も見受けられる。とりわけ、連銀がそのポートフォリオをよりリスキーなものにしている事だ。短期で借りて長期で投資することにより、連銀はある意味で最後に駆け込むヘッジファンド[the hedge fund of last resort]のようなものになりかかっている。もし将来に利上げが必要となるような事がおこれば、連銀はそのポートフォリオで損失を出す事になってしまう。そしてもし(市場価格で評価しない[not marking to market]ことにして)そんな損失を無視してしまうとしても、新しく取得した長期債券のポートフォリオから得るよりも多くを、その新しく拡大させた準備への利子の支払いに費やす事になるかもしれない。そういったキャッシュフローの損失は潜在的に連銀の政治的な独立性(すでに一部では非常に人気があるとは言えない)を損ないかねないものだ。しかしもし連銀が必要な時になってもそういった損失を避ける為に利子率を上げないでおいたならば、インフレーションは確かにいずれは問題となるだろう。そんな間違いは犯さないと考えるくらいには私は連銀のチームを信頼しているが。
よってつまるところ、私はQE2は正しい方向への小さいがしかしリスクのある一歩だと判断している。

追記:私はその結論には賛同しないが、QE2についてのこのビデオは面白い。

*1:金融政策に関わらず、実のところ今の共和党の2012年までの方針は[http://thinkprogress.org/2010/10/25/mcconnell-obama-one-term/:title=「オバマを一期限りの大統領にする」]  事なので、その為には共和党のマントラである減税以外の景気刺激策には完全に反対です。共和党系の経済学者であるマンキューは政治的にはQE2に反対しなければならないところですが、特に発言がないということは経済学者としては反対ではないのだろうと見越されての突っ込みでした。