P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

Unhinged: トランプの補佐官だった黒人女性によるトランプ政権暴露本

ドナルド・トランプのリアリティショー The Apprentice の出演者としてトランプと関わりはじめ、トランプ陣営の一員として選挙にも関わり、トランプ政権で数少ない非白人男性の一人として大統領補佐官の一員ともなったアマロサ・マニゴールト・ニューマンによるトランプ政権暴露本。

Unhinged: An Insider's Account of the Trump White House (English Edition)

Unhinged: An Insider's Account of the Trump White House (English Edition)

その途中、トランプファミリー内部の権力関係を理解しようと立ち止まって見ていた事を思い出す。眼の前で、ドナルドはバニー達といちゃついていた。その近くでは、ドンJrが父親に心配げな視線を送っている。父親を畏れかつ恐れている様子で。部屋の向こう側では、メラニアが彼女の夫を見つめている。ミステリアスに、張り詰めた様子で。そしてイヴァンカは微笑んで、近くの誰もを魅了していた。ドナルドは自分の息子も妻のことも見ることは無かったが、イヴァンカの事はしばしば眺めていた。

これは2007年、トランプのリアリティショーを祝うために、プレイボーイ誌の創刊者ヒュー・ヘフナーの大邸宅であるプレイボーイ・マンションでショーの出演者達、番組関係者、トランプファミリー、そして裸の女性たち一杯(!)と共に行われたパーティーについてアマロサが書いている1シーンです。トランプが妻のメラニアと冷めていて、息子たちは軽視していて、娘のイヴァンカにだけやけに興味を持っている事はよく知られていますが、それにしてもこの描写はあたかもアガサ・クリスティによるおぞましい家族関係の描写のようです。これから殺人事件が起こる前の。

殺人事件はともかく、この10年後にはトランプはアメリカ合衆国大統領となってしまい、そのおぞましさを全米そして全世界規模に広げてしまいます。アマロサはその悪夢の実現を手助けした一員です。そうなった理由について本人は、もともと協力していたクリントン陣営からひどい扱いを受けたから、トランプは長年に渡っての友人でありメンターだったから、そして(これは当選後に特に重要になったものですが)人種的多様性が非常に低いトランプ陣営に黒人を中心とした少数派の声を届けるためだったと書いています。そして実際、トランプ政権発足後、補佐官となったアマロサは少数派の為に色々と活動をしていたようです。トランプ政権は圧倒的に白人、さらに言って白人男性の集団であったわけですが、アマロサ本人は人種差別主義者(racist)と批判されるトランプは人種差別主義なのではなく"racial"なのだと信じていたと。この"racial"という言葉、いまひとつ意味が分からないのですが、それに"ism"がくっついた"racialism"は伝統的には人種差別主義(racism)と同義だったものの、現在ではその意味でつかわれる言葉としては完全に"racism"に圧倒され、どうやらなにやら"racial"は人種差別を意味しなくなっている模様。しかし結局、トランプ政権のほぼ全部白人、主に男性という環境で働く中で結局、それはいうなれば希望的観測、自分をごまかしていただけなのが分かったという結果に。
 
トランプ本人が実際に人種差別主義者なのかは正直分からない、というか実は単にクソな人間なだけで人種差別主義者ではないのではと思うのですが、トランプ政権が白人至上主義者からの支持を集めていた事は早いうちから分かっていた事実なわけで、正直アマロサの書いている事にはなんだかなぁという感想を持たなくは無いのですが、トランプの番組に出てトランプとの関わりを持った事が貧困からのアマロサの成り上がりを助けたのも事実なわけで、個人的に人種差別的な扱いをトランプから受けたわけではないアマロサとしてはトランプを信じたのも当然なのかも。そして裏切られてしまったのも。