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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

フィアー・アンド・ロウシング・イン・チャイナ・デイリー

中国

The Atlanticに2007年から1年間、中国の英語新聞China Dailyで働いていたカナダ人、Mitch MoxleyによるChina Dailyで働いていた時期についての回想録、Apologies to My Censorからの抜粋が載っていました。で面白いかなと思いましたので、訳してみました。発展途上国的ダメさや政治的縛りの難しさというのは外国の話だと笑えます。まあ日本でも多分70年代くらいまで、外国人記者に求められたのは同じようなものだったのじゃないかと思うんですけどね。
元記事のタイトル、Fear and Loathing in China Dailyはハンター・S・トンプソンのFear and Loathing in Las Vegasのもじりですね。それを単純にカタカナにするのは詰まらないのですが、邦訳も原題直訳もちょっと意味が強くなりすぎるので、結局、カタカナにしてしまいました。
誤訳、誤字、脱字などありましたら、コメント欄にお願いします。
 
フィアー・アンド・ロウシング・イン・チャイナ・デイリー
僕がChina Dailyに書いた記事のほとんどについて、Fengさん*1の指示は明瞭だった:「西洋人がどう思っているのかを調べろ」
China Dailyの記者として、ピューリツァー賞を取るようなジャーナリズムなど望まれていない事は最初から明らかだったし、そして「西洋人がどう思っているのか」調はすぐに身につけることができた。財産の価値、中国の物品、中国についてのウェッブサイト...こういったもの全てについて、外国人がどう考えているのかをしらべるのが僕の務めだった。編集者たちは単純に僕の事を見たくも気にしたくもないようだったし、それは僕にも結構なことだった。
僕に振られたネタはほとんどがビジネスセクションの裏面か、Business Weeklyと呼ばれる週末の増刊に詰め込まれる提灯持ち記事だった。China dailyの為に書いた最初の頃の記事の一つは中国人記者との共同だったが、ダウンタウンで行われるイスラエル物産フェアについてだった。オリーブやホムス、そしてワインなどを味見した。気持ちのよい午後だったが、それは記事ではなかった。小さな記事すら必要ないようなものだったのに、とにかく僕たちは特集記事を書いて、基になるような証拠などなにもないのにイスラエルの商品が中国市場を席巻していると報道したのだ。
また別の記事で、編集は僕を北京の有名なシルクストリートマーケットに送り込んだ。シルクストリート、中国語で秀水街は長いこと西側政府と企業にとって象徴的な悩みの種で、(そこで売られる)偽物と知的財産侵害を取り締まるよう中国に要求していた。珍しくも正当なブランドが勝利して、中国当局は当時、秀水街が高品質なシルクに集中して偽物がなくなるように「再編成」したばかりだった。そしてChina Dailyは、このマーケットから偽物が100%なくなったと宣言する記事を書いていた。
「西洋人がどう感じているのか調べてきてくれ」、Fengさんはそう言った。
シルクストリートについた僕は、その場所が床から天井まで偽物で一杯なことを発見した。ジーンズ、ジャケット、靴、下着、何でもだ。欲しいものがなんだろうと、そこに全部ある。そしてほとんど全部が偽物だ。シルクは本物だ、と僕は言われたが、でもそれを買う外国人はいなかった。実のところ、偽物こそが外国人の求めているものだった。「安いなんかをプレゼントとして持って帰りたいんだよね」、と若いアメリカ人が僕に語った。(僕自身、ちょっとした買い物をして、カルバンクラインの下着の模造品を二つ購入した。)
China Dailyにて翌朝、僕は外国人が秀水街に行く理由は安い模造品であって、高いシルクではないという結論を伝えた。その証拠も穿いていた。
「偽物のことは触れられないよ」、とBusiness Weeklyの編集者が言った。「訴えられちゃう」
「でも、商品は偽物ですよ。マーケット全部が偽物です」
「しかし政府は本当に知的財産権問題で取り締まりを行ったわけで、だから〜」彼はだらだらと話した。
我が編集者としばらく議論した後、僕は外国人がこのマーケットを好きなのはその「低コストの商品」の為だと書く事を許された。模造品についての全ての記述は記事から削除された。
・・・
政府に好意的な提灯持ち記事を書くことが僕の平日の大半だったが、金曜日はまだ僕が編集のシフトを務める日となっていた。China Dailyのオピニオンページの(文章を)仕上げて洗練させるわけだ。文章の大半は事実に基づいた主張などではなくて、何にも基づかない大言壮語だ。多くが、僕がジャーナリストとしての倫理として習ったもの全てに反していた。China Daily自身の規定も含めて:「事実、誠実、公平、完璧」(Factual, Honest, Fair, Complete)。オピニオンページの編集を受け入れるのは時折難しいものだったが、しかし他にしようがなかった。どんな文句も誰の耳にも届かないことは知っていたし。
文章自身も編集しづらいものだった。ビジネスセクションの為に僕が編集する記事が下手くそなものだったなら、編集する前に書き直せと記者に突っ返していただろう。しかしオピニオンページではそうできなかった。書いていたのはだいたい、上の編集者だとかトップの大学の中国の重要な学者だったりしたのだ。
ある日、僕は中国の政府により必須とされる大学入学試験を称賛するオピニオン記事を編集した。この試験は、国中の高校最上級生の悩みの種だった。大学はほとんどこの試験の成績だけに基づいて生徒を選ぶ。文章は繰り返しばかりでバカバカしいものだった。それはその日に僕が編集することになっていた1000文字超の7つの記事のうちの5つ目で、僕はうんざりしていた。で、その記事を完全に書き直してしまった。そんな事はしないようにとされていたのだが。無駄な繰り返しや、ぎこちない文章、そして不必要な専門用語を取り除いた。出来上がった文章は元の半分ほどの長さとなった。まだ要点に欠けたものだったが、少なくとも綺麗な、ちゃんとした英語で書かれたものとなった。
午後おそく、オピニオンページの編集者の一人、友好的な中年の中国人男性が歯と歯の隙間のあいた笑顔でもって、私のデスクに近づいてきた。彼はその眼鏡を取ると、ため息をついた。
「モクスリー」、私の名前の順番を勘違いして彼は言った*2。「問題があるんだ。君は仕上げをやりすぎた。あの文章をページに載せる事ができない。短すぎるんだよ」
「あれの大半は繰り返しでしたよ」、と僕。「ある段落なんか、著者はなにかを言おうとして、4回も違う表現で書いている。なので一回だけに直したんですけど」
「そうだね、仕上げるのは結構だ。しかしページに載せる事ができない」
手詰まりとなってしばらくしてから、僕は編集をやり直すことに同意した。編集者が歩き去っていき、僕は元の文章を開いてみた。どんな変更もしないまま、僕はそれを彼に送り付けた。一言一句、元のまま。そっくりそのまま、それは翌日の新聞に載った。
だれも何も言わなかった。
その翌週、僕が仕事場につくと、僕と机を同じくする、外国人嫌い、上海人嫌い、台湾人嫌いのハリー*3がいなくなっていた。僕の新しい隣人は自分のことをワン(Wang)と紹介した。「ワンだけでいいです」。(中国の事を事をあまり知らない人の為に言っておくと、ワンという苗字だけで誰かを見つけるのはトンデモなく難しいことだ*4。ワンは僕と同じくらいの歳で、痩せて、眼鏡をかけ、綺麗な髪をサイドにわけていた*5。彼は共産党員だと僕に教えてくれたが、それは別に彼が政治や党に興味があるというわけじゃなくて、キャリアサクセスにとって鍵となるからだそうだった。党員はたいてい、奇数週の週末を党集会で過ごすことになるんだが、そこでは党の偉いさん達が何時間も政策やイデオロギーについてぶつぶつと語るそうだ。ワンは新聞の為に自然資源についてをカバーしてが、彼は優秀だった。一日中電話して、綺麗なコピーをファイルしていた。
数週間たったある金曜日、僕はワンが僕の編集したオピニオンページを校正しているのに気がついた。最初、僕はこれを僕の仕事への侮辱ととったが、それから僕のボスが僕が本当は校正ページを読んでいない事を発見したのじゃないかと心配になってきた。
「一体、なんで上は君に校正読みをさせているの?」僕はたずねた。「もう一日中、記者として働いているのに」
「政治的な間違いがないかどうかの為にだよ」
「政治的間違い?どういうこと?」
「たとえば台湾と香港とか。他には、いつか韓国(South Korea)を朝鮮(Korea)と称することがあった。これは受け入れられないんだよ。だって二つの朝鮮、南朝鮮と北朝鮮があるわけで、一つの朝鮮が両方の朝鮮を代表することはできない。もし我々がそんな事を書いたら、北朝鮮が激怒してChina Dailyに電話してくるよ」
「なるほど」
僕は校正シートを取り出して、台湾を中国の一地方とみなしている記事を発見した。
「おい、政治的間違いを見つけたぞ。この記事は「中国と台湾」と書くべきだろ、二つの別の国なんだから?北と南の朝鮮みたいに?」
沈黙。ワンはその紙を掴むと、眼鏡から数インチのところに持って行った。
「ジョークだよ」、と僕は言った。
ワンはただ、神経質そうに笑うだけだった。

*1:漢字名は分かりません。

*2:これはミッチと呼ぶべきシチュエーション。

*3:おそらく同僚だった中国人の英語名。

*4:それだけWangという苗字が多いという事。ほんとかどうかは知りませんが、ワン Wangというのは世界で一番多い苗字だそうで、同様にほんとかどうかは知りませんが、モハメドというのが世界で一番多い名前だそうです。でもモハメド・ワンはいないというジョークがあります。

*5:なんかマンガに出てきそうな昔ながらの典型的東アジア人という感じ。