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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

クルーグマン: 真実っぽさの時

クルーグマンのコラムの翻訳です。今回はアメリカの民主主義について、というか嘘と間違いがはびこるアメリカの政治情報について嘆いています。まあ、昔から嘆いてられますし、最近は新古典派総合*1の可能性にも悲観的なことを書いてられましたが。
誤訳、タイポ等ありましたら、コメント欄にお願いします。

修正:2つ修正があります。まず一つは元々のクルーグマン自身による間違いの修正で、下院共和党のエリック・カンターのポジションは3番目ではなく2番めポジションだったそうで、原文に修正が入っています。
もう一つは私の誤訳です。このコラムの原文は"Moment of Truthiness"というものなのですが、最初、これを何の疑問も持たずに「真実の時」と訳していました。文中にも「真実の時」という言葉が出てきますが、これの原文は"The Moment of Truth"で、こちらはクルーグマンが批判している財政赤字削減のレポートです。コラムタイトルの方の"Truthiness"はこの"Truth"をパロったものなので「真実の時」は誤りでした。なので「真実っぽさの時」と改題します。
 
 
真実の時 2013年8月15日
だれもが民主主義がどう働くことになっているのかを知っている。政治家たちはなにかの問題について解決案を提案して選挙に出馬することになっており、知識をもった大衆はそれらの問題に基づき、そして政治家の認識されている性格や能力を考慮して、その票を投じることになっている。
だれもがまた、現実はこの理想には到底およばない事を知っている。有権者はしばしば間違った情報を信じているし、政治家たちには信用できる正直さが無かったりする。それでも我々は、有権者が最後にはなんとか正しい判断をするものと思おうとしている。政治家たちも結局は、己がすることについての責任を取らされるのだと。
しかし、実際に稼働中の民主主義のより現実的なこの修正版ですら、ほんとうに現実的だろうか?我々の政治システムは間違った情報と嘘情報によってあまりにも汚されていて、もはやそれも機能できなかったりするのではないだろうか?
財政赤字のケースを考えてみよう。これはワシントンをおよそ三年に渡って支配してきた問題だ。最近はおとなしくなってきているが。
財政赤字について有権者はろくに知らないと聞かされても、おそらく驚くようなことではないだろう。しかしそれでもどれほど間違っているかには驚かされるのではないか。
ガックリくるようなタイトルの良く知られた論文、「考えているつもり It Feels Like We're Thinking」において、政治学者のChristopher AchenとLarry Bartelsは1996年のサーベイについて報告している。これは有権者にクリントン政権の下で財政赤字が増えたか減ったかについてたずねたものだ。実際には、赤字は大きく減っていた。しかし有権者の答えでもっと多かったのは、そして共和党員の中では過半数だったのは、上昇したというものだった。
私は自分のブログで同様のサーベイを今日行えばどんな結果になるかと考えたことがある。赤字は1990年代においてよりもさらに早く減少しているのだが。問うてみるもので、答えを得る事ができた。グーグルのチーフエコノミストのHal Varianがこの問題でグーグル・コンシューマー・サーベイを実施することを申し出てくれたのだ。なので我々は、2010年1月以降、赤字が増えたのか減ったのかについて質問してみた。そしてその結果は、1996年よりもさらに悪いものだった。返答した人の過半数が赤字は上昇したと答えており、40%以上が大きく増えたと答えたのだ。たった12%だけが正しく、大きく減ったと答えた。
私は有権者が愚かだと言っているのだろうか?全く違う。人々には生活があり、育てなければならない子供がいる。座って議会予算局のレポートを読んだりはしないのだ。その代り、人々は物事を知っていそうな人達から耳にすることに頼る。問題は、耳にすることの多くが誤解を生むようなものだということだ。完全なも違いではなかったとして。
完全な間違いには、知っても驚かないだろうが、政治的な意図がありがちだ。1996年のデータでは、共和党員は民主党員よりも赤字について間違った認識をもっている可能性が高かった。そして同じ事は今日においても真実だろう。結局、共和党はオバマ政権の上昇し続けていることになっている赤字から大きな政治的な得点をえたのだし。赤字が減少しても同じレトリックを使い続けているのだから。なので下院共和党で2番目のポジションのエリック・カンターは「増加する赤字」についてFox Newsで断言するし、ランド・ポールはブルームバーグ・ビジネスウィーク誌で我々は「毎年、1兆ドルの赤字」を出していると語ったりする。
カンター氏やポール氏のような人達は自分たちが真実ではない事を述べているのを知っているのだろうか?その事を気にしているのだろうか?多分、違う。スティーブン・コルベアの有名な真理によると、止めどない赤字についての主張は本当ではないかもしれないが本当ぽいし、そしてそれこそが大切なのだ。
しかし、こういったことについての審判はいないのだろうか?信用できて、党派的ではなく、権威があって、嘘を嘘と判定できそして判定する人たちが?かつてはいた、と思う。しかし最近では党派間の分断が非常に大きく、そして審判になろうとする者たちも嘘と判定するのを恐れているように思われる。驚いたことに、http://www.politifact.com/truth-o-meter/statements/2013/aug/05/eric-cantor/eric-cantor-says-federal-deficit-growing/ファクト・チェックサイトのPolitiFactはカンター氏のはっきり間違った言葉を「半分真実」と判定したのだ。
さて、ワシントンにはいまでも何人かの「賢人」がいる。ニュースメディアから特別の敬意をもって取り扱われる人達だ。しかし赤字の問題については、この賢人とされる人達はその問題の一部でしかないことが明らかとなった。オバマ大統領の赤字についての委員会の共同議長を務めたAlan SimpsonやErskine Bowlesは、大衆の赤字への心配が高い時にそれを盛大にたきつけた。彼らのレポートは、「真実の時」と不吉なタイトルが付けられている。では、かれらは赤字が減少してそのトーンを変えただろうか?否。なので、財政の現実が全く様変わりしても、上昇を続ける赤字についての発言に変化がないのは何の驚きでもない。
全てまとめると、うんざりする状況という事だ。嘘や間違いを吹き込まれた選挙民、喜んで間違いに加担する政治家と吠える事を恐れる番犬。そして広く尊敬される、あまり党派的ではないプレイヤーたちも、彼らは大衆の間違った認識を正すのではなく、助長しているようだ。
では、どうするべきなんだろうか?真実を語りづづけること、そしてそれが届く事を希望する事、となるだろうか。しかし、難しい事だ、このシステムが上手く働くのかどうか、疑問に思わないのは。

*1:政府の金融財政政策による完全雇用実現を前提として上での自由市場経済という第2次世界大戦後に支配的となったケインジアン的ミクロ・マクロ融合の発想。さらにはGreat Moderation期のようなもろケインジアン的でない時期での金融政策による景気安定も含めているのじゃないかと。