P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

トランプノミクスは改革派保守の悪の双子

最近、翻訳はやらないのですが、ニューヨーク・タイムズの保守派コラムニスト、ロス・ドーサットのコラムを読んでたらなんか、「辛いなのだな、ジオンも」と思ったのでなんとなく訳してみた次第。
追記:訳中の「ドナークラス」とは、大口献金者、つまり共和党の金持ちスポンサー達の事です。
 
 
「トランプノミクスは改革派保守の悪の双子」 2016年8月10日

ドナルド・トランプよりずっと前から、共和党に問題がある事は明らかだった。その中心となる経済アジェンダ、つまり減税、自由貿易規制緩和、そして巨大な連邦政府を縮小させるという約束は、自党の有権者の多くを含む多数のアメリカ人から、自分達の問題とはかけ離れていて、金持ちへ偏り過ぎているとみられていた。
 
この問題をなんとかしようという最後の試みがジョージ・W・ブッシュの「思いやりのある保守主義 (Compassionate Conservatism)」*1 だったが、これはブッシュとともに失敗し、大した成果もないまま2008年と2012年において党はレーガン時代によりありがちだったメッセージへと戻ってしまった。
 
しかし2016年の選挙戦では、党は新しい実験を行う準備ができているという感触があった。保守派インテリゲンチャ内の一部重なる二つのグループ、つまり改革派保守 (reform conservatives)リバタリアン・ポピュリストが、自由市場の党がいかに「金持ちの党」という重荷を少しでも減らして、中産階級の不安により直接的に対処するについてのアイデアを発信していた。マルコ・ルビオから、ランド・ポール、リック・ペリーそしてジェブ・ブッシュといった何人もの大統領候補がそういった提案のいくつかを取り上げていた。"you built that!"とか"47percent"*2の日々を過去のものにしたいという明らかな期待とともに。
 
その代わりに、我々は共和党の経済政策の問題に対して異なった答えを得てしまった:トランプ・ポピュリズム。これが労働階級共和党員の票を獲得して、その全てを、あるいは少なくとも多数をひっくり返してしまった。そしてトランプが、観念的にでも、共和党の減税アジェンダにコミットしたデトロイトでの月曜のスピーチ以後、我々はこのトランプノミクスがどのようなものなのかがはっきりした。 
 
それは、改革派保守主義の悪の双子だ。 
 
さて、私は改革派保守に属しているので、この「悪」という言葉には偏向があるだろう。なので説明させてもらいたい。基本的には、改革派保守は共和党の自由市場、自由貿易、そして社会保障改革へのコミットメントは維持される価値のあるものだという方向で考えている。しかしこの大まかにいってポール・ライアンアジェンダを追求する一方で、党は停滞する賃金や上昇する医療と教育のコストに苦しんできている労働者のアメリカ人へのより直接的なサポートを提供する必要もあると我々は考えている。そしてこのサポートを賄うための明白な方法は、究極的には、金持ちの為の大規模な減税に対して少しばかり偏執的でなくなることだ。*3
 
トランプ主義はおおざっぱにいってその逆のアプローチをとっている。金持ちにもっと払わせるという彼の言葉の上のたわむれにも関わらず、サプライサイドへの偏執こそが、共和党の伝統的な経済政策のなかでトランプが一貫して受け入れているものなのだ。彼は税額控除(tax credit)へのサプライサイド・ドグマの長年の反対も受け入れている。これが今週、彼が公表した家族向けの政策が子供の為の税控除(tax deduction)しか含んでいない理由だ。これはイヴァンカ所得層と呼べる高所得の働いている母親を不釣り合いに助けるものになっている。*4
 
と同時に、トランプは自由貿易社会保障についての党のコンセンサスと決別している。ワシントン・エグザミナーのByron Yorkが述べているように、その経済政策のスピーチは保障改革に触れておらず、近年のすべての共和党候補とは明らかに違ったものになっている。またレーガンジョージ・W・ブッシュは時折、政治上の都合から保護主義者となったりもしたが、トランプは現代の共和党候補として初めて明確な重商主義者として選挙を戦っている。大規模な関税とインフラ支出がラスト・ベルトの輝きを取り戻すことを約束して。
 
このコンビネーション、つまり保護主義と「今日もメディケア、これからもメディケア」と結びついた金持ちへの更なる減税は、客観的に酷い政策だと考えている。しかしいくつものポピュリズムがある中で、これは現在存在している共和党の支持者の集合体に対処する戦略として二つのアドバンテージを持っている。
 
まず第一に、トランプノミクスは老年、初老の高齢有権者へじかに刺さるものになっている。その社会保障についてのメッセージが直接的に、そして工場労働を取り戻すという実行不可能な約束がノスタルジアの深い力を通して。
 
新しい共和党ポピュリズムの為の保守派インテリゲンチャのアイデアの多くは、意図的により若い有権者へと向けられている。ミレニアム世代と未成年へはよりリバタリアン的アイデア、労働者としてより稼いで家族を育てようとしている30代、40代へは改革派保守のアジェンダを。しかし共和党支持者の集合においては、50歳以上が圧倒的であり(そして投票も)、トランプのポピュリズムは彼らにより響くものとなっている。
 
第二に、サプライサイド経済学を中心に据える事で、トランプノミクスはドナー階級の一部を満足させるものになっている。彼らにとって、その納税額を可能な限り引き下げる事以外のすべての保守政策は二次的なものでしかない。
 
もしこれがわが同胞たる市民たちの動機についてのシニカルな見解、これまでは右派を批判するリベラルが表明してきた見解に聞こえたとしたなら、まあ、この一年は保守派エスタブリッシュメントのシニカルな見解が幾度となく証明された一年だったわけなので。
 
共和党ドナーの一部が彼らのトランプ支持を高所得者層減税がほんとに素晴らしいからと正当化することがないと信じたい。しかしトランプ陣営が、何かを得るには何かを与えなければならないとして行動しているのは確実だ。
 
トランプが約束した相続税撤廃を「保守運動のかなめ」だと称賛した、以前はジェブ・ブッシュのファンドライザーだった現トランプの州財政担当に同意するドナーは少ないと信じたい。しかし、もはやそれほどイノセントでもなくなってしまった。
 
トランプノミクスにとっては残念だが、トランプがその失敗しつつある陣営を救う事を望んでいるのなら、共和党ドナーも白人高齢層も、トランプが今必要としている有権者ではない。予備選時の彼のポピュリズムの強みが、本選での弱みとなっている。本選では共和党は更に多くの票(とりわけ、郊外の女性票)が必要なのだが、それには異なった、それほど過去志向ではないタイプの保守派ポピュリズムならば獲得の助けになりえただろうが。
 
その違うタイプを勧めてきた我々にとっても残念ながら、2016年に我々はアイデアの戦いに敗北した。そしてトランプノミクスが勝利したのだ。

*1:昔の「人間の顔をした社会主義」みたい。

*2:両方とも2012年の選挙戦で共和党候補のミット・ラムニーが共和党金持ち層向けに語った、貧乏人を見下した言葉。

*3:つまり、ちょっとぐらいの増税は受け入れろという事。

*4:イヴァンカはトランプの娘の名前。男ばかりのトランプ経済政策チームの中で働いている女性向けの政策を訴えているらしいが、この税控除でイヴァンカのような高所得層は1万ドルの恩恵を受けるが、一般の働いている母親への恩恵はほとんどいないそうだ。