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P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

金持ちですらアメリカ大統領選を買えるわけではない:あるいはチャールズ・コークの牡蠣ではなくて悲しみでいっぱいのインタビュー

政治家が金持ちに取りいって貧乏人に目を向けないなんてのは昔からの批判ですが、経済格差の拡大が取り沙汰される昨今、それは更にリアリティを増しているようにも思えます。政治が金で買われているという批判なり不満は、アメリカにおいて金持ち政党の共和党だけでなく民主党に対してもよく言わるものなのですが、実際、それを裏付けるような研究もあります。この調査によると、アメリカ政府の政策は所得階層で丁度真ん中(50パーセンタイル)の人達の選好よりも、高所得層(所得階層の90パーセンタイル)の選好の方により整合的であるそうです。

では金持ちは政治を「買って」我が世の春を謳歌しているのかというと、残念と言って良いのかどうなのか、大金持ちですら政治を操るのは難しいというインタビューがファイナンシャル・タイムズに掲載されていました。共和党の大スポンサーの一人で「古典的リベラル」を自称する、チャールズ・コーク(Charles Koch)のインタビュー*1です。

てきとーに簡略化しまして、共和党の支持層はスポンサーである金持ち層と、人種的文化的多様化の進む今のアメリカに不満のある一般の白人保守層から成り立ってます。それぞれ「保守」と自称・他称されますが、この「保守」というのが経済と文化面でそれぞれ異なる態度を意味する傾向があるのが厄介なところ。金持ち層保守の主眼は経済分野への政府不介入という保守(自由市場バンザイ!)であるので、文化面ではいわゆる「保守的」ではなかったり(こっちも自由)するのに対して、多様化に反対する一般の白人保守層の主眼は文化・宗教・人種において変化を欲さないという意味での保守(反多様性)であるので、経済面では実は「自由市場バンザイ!」タイプの保守ではなかったり(増税や規制について必ずしも反対ではない)します。ここらへんは現実の政治における「保守」という言葉の二面性*2の問題だと思いますが、アメリカの場合、それをさらに複雑にしているのが移民の問題で、保守の金持ちは移民賛成、保守の一般白人は移民反対、の傾向がありますが、なにしろこの「移民」の問題は長期的には有権者の数にも関わる厄介な問題です。
 
共に保守を名乗りつつも実はそういった経済的・文化的選好が大きく異る集団からの支持をバックに共和党はこれまで選挙を戦ってきました。といっても勿論この二つのグループは対等なわけではなく、伝統的に金持ちとビジネスの政党であった共和党は1960年代のニクソンによる南部政策以来、反市民権運動の人種・文化的保守層*3の白人を人種や宗教を利用して選挙に動員し、選挙が終われば投票してくれた保守白人層にリップサービスを行いつつも金持ちへ向けた減税なり規制緩和を行うという政策を続けてきたわけです。このことはアメリカのリベラル派が長らく指摘してきた事ですが、別に一般の共和党員がそれを感じてこなかったわけではありません。共和党中枢は我々の事を無視しているという共和党員からの不満はずっとあったわけですが*4、これまでは一般の共和党員も共和党中枢が支持する候補をなんだかんだ大統領選では支持してきていました。非主流派候補が共和党候補選において一時的に支持を高める事があってもそれはあくまで一時的なもので、結局は党中枢が選んだ候補が最終的に大統領選本選へと進みました。候補は有権者が選ぶのではない、党が選ぶのだという政治理論が生まれるくらいにです。

ですが共和党支持層の二つのグループの齟齬が非常に大きくなり*5、その「党が決める」理論の正しさが疑われるようになってきたのが、この2016年の共和党大統領候補選であり、その象徴が、父と兄がそれぞれアメリカの第41代と第43代大統領であり、2015年前半の時点では共和党中枢からの支持と金持ち層からの1億ドル以上の献金を受け、共和党候補最有力と見られていたのにも関わらず、夏前あたりからのトランプの躍進と共に凋落して今では支持率も3%台に低迷のジェブ・ブッシュです。まだ潤沢な資金があるのにもかかわらず今ではほとんど泡沫候補扱いです。
 
そういう状況を背景にした、「小さな政府、自由な市場、そして規制されない競争が答えでないような問題は存在しない」かのような思想の持ち主のチャールズ・コークのインタビューです。このチャールズと、弟のデビッドのコーク兄弟はForbesによるとそれぞれの資産が429億ドルでともに世界第6位のお金持ちです。そしてまた共和党勝利の為に積極的に動いている人達であって、リベラル派からはシスの暗黒卿並に扱われている人達です。このインタビューによると、コーク兄弟は自由市場主義の政策実現の為に、

彼ら(コーク兄弟)の、シンクタンク選挙対策グループ、有権者登録*6、そして対立候補の弱点調査などの様々な組織のネットワークは全国107のオフィスに1200人を雇用しており、これは政治ニュースのPoliticoの分析によると共和党全国委員会の現在のスタッフのおよそ3倍半となっている。
コークのスタッフは保守の献金者たちからの9億ドル近くをこれから配分していくことになるだろうと語った。この金は今年の選挙を右派の考えに沿うように動かす為に使われることになる。その三分の一ほどが民主党候補と争う選挙陣営を直接支える為に使われる。
 
Their network of organisations — a panoply of think tanks, campaign groups, voter registration and opposition research arms as well as political action committees — employs 1,200 people in 107 offices nationwide, about three and a half times the current staff of the Republican National Committee, according to an analysis by the politics news outlet Politico.
Koch’s staff have told him they expect to marshal close to $900m from conservative donors. The money will be spent trying to influence this year’s elections in favour of rightwing ideas; around a third of it on directly funding political campaigns against Democratic candidates

なんだそうです。つーわけで、コーク兄弟(そしてその他の共和党の大スポンサーたちは)は個人でアメリカを変えようと懸命に努力されているわけですが、じゃあコーク兄弟やその他の金持ち達が思うままにアメリカを操れているのかというとそういう訳にはいかないのが面白いところで、まさにプッチャヘンズアップ、神に感謝。結局、これまで良いように利用してきた一般の保守白人層の反旗によって大統領選本選は勿論、共和党候補選ですら思うままにならなくなっています*7。大金つぎ込んで共和党と保守の為に頑張っているチャールズ・コークもインタビューの中でこの現状を嘆いています。
 

現在の共和党の大統領候補達には「失望」しており、政策の一部に同意できるだけの候補を支持せざるを得なくなったと彼は述べる。「高い熱意なんてものを持つのは難しくなってしまった。私が情熱を持ち、この国が早急に必要とすると思うものごとが取り合われていないのだから」。
 
He says he is “disappointed” by the current crop of Republican presidential candidates, and resigned to having to support one with whom he agrees on only some issues. “It is hard for me to get a high level of enthusiasm because the things I’m passionate about and I think this country urgently needs aren’t being addressed.”

 
悲しいものですねぇ。でも、面白いです(笑)

*1:ちなみにこのインタビューはチャールズ・コークの会社であるKoch Industriesの本社にあるCafe Kochで行われたものですが、このCafe Kochはこの本社があるカンサス州ウィチタでトップ10に入る美味しいレストランなんだそうで、評論家によるとKoch Industriesで働いている知人がいる地元民はその知人に連れて行ってくれとお願いする価値があるそうです。

*2:ある時は「自由」を意味し、別の時は「不自由」を意味していたり。

*3:要は人種差別的。

*4:2014年に共和党の下院院内総務だったエリック・カンターが共和党内の予備選で政治には全くの新人の候補に敗れて院内総務を辞任したりとか。http://www.fujisankei.com/video_library/world-eye/eric-cantor_5.php

*5:まるで非金持ちの共和党員が一枚岩であるかのように書いてますが、実際には強硬派の茶会系からより穏健な人達まで共和党支持者幅は当然あります。ですがここではそれは無視しています。

*6:アメリカでは選挙の投票のためには住民が行政に有権者登録をしなければなりません。登録をしないと登録できないので、自分のところに投票してくれそうな住民の有権者登録を助ける組織は接戦においては重要になります。

*7:そしてまた面白くなっている。