P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

共和党:アニメでオナってる子無し独身男なんざ、人類にとって無価値!

かっけえ!(笑)

Rick Wilson MSNBC Trump's Fans Are Childless Single Men Who Masturbate to Anime

タイトルにあるような、一昔前の日本のネット界ならすぐさま炎上しそうな事を共和党のストラテジスト*1の方がアメリカのテレビ局MSNBCの"All In with Chris Hayes"という番組にて発言されてました。「アニメ」は本当に"Anime"であって、アメリカでアニメーションを一般に意味する"Animation"とか"Cartoon"ではないので、日本系のアニメの事を指していると思われます。番組全体を観たわけではないのですがどうもこの発言は、トランプとテッド・クルーズの強さは共和党エリートのお題目である「小さな政府」とか「自由な市場」等々に一般の共和党員が実際には感心が無いという事を意味しているのではないかという疑問、共和党員はその手の「保守主義」よりも実際は偏狭なナショナリズムの方に惹かれているのではないのかという疑問を問われて、共和党エリート層の保守主義も支持されているんだと反論している中で出てきたトランプサポーターへの中傷のようです。
 
以下、このストラテジストさんの返事の中のトランプとアニメについての部分です(途中の番組司会者の発言部分は削除)。
 

そして、自称オルト・ライト*2の大声で喚く狂った連中、トランプが好きで、ツイッターのアイコンがヒットラーまみれの連中ですが。
...
ドナルド・トランプが凄いと、凄い何かなんだと思っている連中のことですが。しかし実際のところ、連中のうちの大半はアニメでマスターベーションしている子供のいない独身男性で、本当に意味のある政治参加者などではない。連中は、全体としての人類のこれからにとって問題となるような人間ではないんです。
 
Now, the screamers and the crazy people on the alt right as they call it,
you know, who love Donald Trump, who have plenty of Hitler iconography in
their Twitter icons.
...
Who think Donald Trump is the greatest thing, oh, it`s something.
But the fact of the matter is, most of them are childless single men who
masturbate to anime. They`re not real and political players. These are
not people who matter in the overall course of humanity.

この後、このストラテジストさんは共和党エリートの奉じる保守主義への支持はまだまだ厚い、しかし物事というものはそう単純には云々とか言わはります。それはそうなんでしょうけど、でもこれまでやってきた保守的ではあるが別段経済保守主義的なわけではない、経済的・文化的な圧迫を感じている白人層を人種差別と恐怖で煽るという選挙戦略のつけが来てるだけじゃないかとも思うわけです。ま、それはともかく、CoolJapanの旗頭であるアニメがアメリカの政治番組の中でマスターベーションとセットで出てくる事に、アニメの浸透とその認識を感じて涙を禁じえませんですな(ウソですけど)。

*1:ここの定義によりますと、「政治家の為に選挙キャンペーンを計画・指揮する上級政治コンサルタント a senior political consultant who designs and directs election campaigns for politicians」なんだそうです。アメリカの「選挙」業界は膨大な金が動くところで、opensecrets.orgによるとたとえば2012年には、26億ドル、その他の議会選挙で37億ドル近く、総額63億ドル近く、つまり7000億円近い金が使われましたし、大統領選と中間選挙の年ごとに凸凹を除くと今の時代珍しいような成長業界です。

*2:alt right(("Alternative right"の略で、このQuoraの記載によると右を自称するが主流派のアメリカ保守主義に反対あるいは軽視されてきた人々なんだそうです。

13 Hours: マイケル・ベイのベンガジ映画


13 Hours: The Secret Soldiers of Benghazi - Trailer #2 Green Band (2016) - Paramount Pictures

アメリカで1月15日から公開されたマイケル・ベイの映画です。ドッカン・バッカンの銃撃と爆発はいかにもベイって感じですが、一つベイっぽくないのがこれが政治問題化(されて)しまっている実際に事件に基づいたものであること。
 
ベイの実話ものとしては「パール・ハーバー

パール・ハーバー 特別版 [DVD]

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がありますし、また日本だと劇場未公開の「ペイン&ゲイン」

ペイン&ゲイン 史上最低の一攫千金
も実話もの*1ですが、「パール・ハーバー」は70年も前の事件ですし、「ペイン&ゲイン」は政治問題化しているわけではない90年代の犯罪実話もの。ですがこの"13 Hours: The Secret Soldiers of Benghazi"は副題にあるリビアベンガジにあったアメリカ領事館が2012年9月11日にイスラム教徒の武装集団に襲われて大使を含むアメリカ人4人が死亡した事件を元にした映画です(日本語版wikipedia記事)。 
 
今のアメリカでは殆どどんな事でも保守とリベラルの対立のタネになりますから、このイスラム過激派による襲撃事件で揉めないわけがありませんでした。ことにこの事件が共和党の陰謀論脳を刺激してしまったので。なぜだかとにかくオバマのせいでリビアの大使館の警備が適切になっていなかったとか、オバマが救助を遅らせてそのせいで大使が死んだとか、更には事件後にオバマ政権がこの件について謝罪したとか、この事件をテロと呼ばなかったとかいう妄想批判を共和党側が行ってきました。この最後の「テロと呼ばなかった云々」というのは要するにオバマ/リベラルが海外勢力のテロに弱いという保守派の妄想なのですが、これが2012年の大統領選ディベートで一つコミカルなシーンを生み出してしまいました。この妄想を信じこんでいた2012年の共和党大統領候補ラムニー*2がテレビ放送されているディベートでこの点をオバマに突っ込もうとしたところ、「いや、なに言うてますねん、わし言ってまんがな」と返された上に司会者にも「ゆうてまっせ、このダンさん」と言われてしまい、わ、わ、わと慌てたラムニーがオバマに「続けて続けて」と催促されてしまったのです。

Romney Foolish During Debate vs Obama on Benghazi

というわけで事前の確認もせずテレビで醜態をさらしてしまうほど妄想にとらわれていたりする共和党は議会での公聴会を何度も開き、結果、調査報告がいくつも出されました。事件が起こったのが2011年であり、翌年が大統領選挙なので、共和党はこれをオバマ攻撃の為に利用しようとしたわけです。また当時ヒラリー・クリントン国務長官であったので、2012年の敗北後も2016年の大統領選を見据えて共和党は度重なる議会公聴会などでこれをヒラリー攻撃のネタとして利用してきました。

しかし結局、オバマやヒラリーに問題があったという証拠を共和党は見つけることができず、それどころか逆に公聴会でヒラリーが追求してくる共和党議員たちに堂々たる対応をみせて逆に評価を上げたりしたので、共和党側にとっては手詰まり感もあったところにこの映画です。すでにFoxニュースはこの映画をヒラリー攻撃に利用しようとしているようです。またドナルド・トランプは共和党の予備選が最初に行われるアイオワ州で映画館を借りきって、ただでこの映画のチケットを配るのだそうです。というわけで、正攻法ではオバマやヒラリーへのダメージを与える事ができなかった共和党は、この映画が少なくともヒラリーのイメージを悪くする助けになってくれないかと期待しているのでしょう。

とはいえ流石にマイケル・ベイも共和党の陰謀論に丸々乗ろうとしているわけではありません。この記事によると、オバマやヒラリーの妨害行為によって犠牲者が出たという共和党の筋書きには流石にそのまま乗っていません。この映画の「グッドガイ」達は警備の為にCIAに雇われていたムキムキコントラクターこと傭兵さんたちですが、彼らの敵である「バッドガイ」達はイスラム武装集団と、そして「ハーバードやイェール」出身で事なかれ主義のCIA局員達であり、政府内の官僚主義です。危険を感じて行動に出ようとする有能な傭兵たちをCIA局員や官僚主義が抑えて邪魔したが為に襲撃を防ぐことができずこんな事になったという筋書きになっているそうです。というわけで直接的にはオバマ政権批判をしていないのですが、しかしCIA局員や官僚主義の無能なり事なかれ主義のせいで防げなかったというのが、基本ウソ間違いなので、結局共和党側の対ヒラリー・ネガティブイメージ戦略を利するものになり得るそうです。まあ娯楽映画に歴史的事実をグダグダいうのは間違いではあるのですが、そうは言っても陰謀論のフィクションに基づいて議会公聴会が行われているという事実もあるわけで、予告編で"This is the true story you were never told(これまで語られなかった真実の物語)"とか言われるとなんだかなぁと正直思います。

ちなみにIMDBを見てみると、この記事を書いている時点で2126人が評価して平均7.4、これはマイケル・ベイの監督作品中では「ザ・ロック」と並んで一番の評価になっています*3。正直、色々書いてはいますが、事実認識と政治を置いとくと実は戦場アクションものとして実は面白いのじゃないかとちょっと期待しています。まあ公開直後であり、かつこういう政治的に揉める作品は一部からの強い評価を受けますから、多分これから落ちていくんでしょうが。ちなみに観客からではなくて、批評家の評価をまとめているmetacritic.comの評価は33人の批評からで100点中48点、ありがちな事ではありますが観客からの評価よりずっと厳しくなってます。ま、ベイ映画ですからねぇ(笑)

*1:この「ペイン&ゲイン」は未見ですが、面白そう。

*2:日本ではなぜかロムニーと呼ばれてましたが。

*3:個人的にはマイケル・ベイ作品の中では「バッドボーイズ」が一番じゃないかと思うので、この「ザ・ロック」の評価は意外。

金持ちですらアメリカ大統領選を買えるわけではない:あるいはチャールズ・コークの牡蠣ではなくて悲しみでいっぱいのインタビュー

政治家が金持ちに取りいって貧乏人に目を向けないなんてのは昔からの批判ですが、経済格差の拡大が取り沙汰される昨今、それは更にリアリティを増しているようにも思えます。政治が金で買われているという批判なり不満は、アメリカにおいて金持ち政党の共和党だけでなく民主党に対してもよく言わるものなのですが、実際、それを裏付けるような研究もあります。この調査によると、アメリカ政府の政策は所得階層で丁度真ん中(50パーセンタイル)の人達の選好よりも、高所得層(所得階層の90パーセンタイル)の選好の方により整合的であるそうです。

では金持ちは政治を「買って」我が世の春を謳歌しているのかというと、残念と言って良いのかどうなのか、大金持ちですら政治を操るのは難しいというインタビューがファイナンシャル・タイムズに掲載されていました。共和党の大スポンサーの一人で「古典的リベラル」を自称する、チャールズ・コーク(Charles Koch)のインタビュー*1です。

*1:ちなみにこのインタビューはチャールズ・コークの会社であるKoch Industriesの本社にあるCafe Kochで行われたものですが、このCafe Kochはこの本社があるカンサス州ウィチタでトップ10に入る美味しいレストランなんだそうで、評論家によるとKoch Industriesで働いている知人がいる地元民はその知人に連れて行ってくれとお願いする価値があるそうです。

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「完全なるチェックメイト」と「ストレイト・アウタ・コンプトン」

トビー・マグワイアには童貞がよく似合う by okemos

 

トビー・マグワイア主演 映画『完全なるチェックメイト』予告編

75年生まれで、既に結婚もして子供もいるトビー・マグワイアが童貞なわけはないのですが、歪みまくってる童貞の役*1がピッタリなトビー・マグワイアが主役かつ製作も務める「完全なるチェックメイト」を元日に観てきました。そして翌日、その対極にあるようなヤリチン集団の映画「ストレイト・アウタ・コンプトン」も観てきました。
 

12/19(土)公開『ストレイト・アウタ・コンプトン 』予告編

*1:作中で童貞卒業しますけど。

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ドナルド・トランプ:4兆ドルの人類への大惨事

アイオワでの共和党予備選のある2月1日までもう一ヶ月半ほどになってしまいましたが、トランプは今だに共和党員の中で人気です。
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(12月18日のRealClearPoliticsの2016 Republican Presidential Nomination)

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デーモン・ナイト:In Search of Wonder

SF作家・批評家のデーモン・ナイトによるSF批評やエッセイをまとめた本の第三版(1996年)をキンドル化したものです(、多分)。

In Search of Wonder: Essays on Modern Science Fiction (English Edition)

In Search of Wonder: Essays on Modern Science Fiction (English Edition)

第一版は1956年、第二版が1967年で、第三版は1996年に出版。第一版は主に50年代前半のSF評をまとめたもので、第二版以降、そこに簡単な自伝や、デーモン・ナイトが主催者側にいたミルフォードやクラリオンのワークショップについてなど80年代(?)あたりまでの文章が追加されていっています。
少なくともSF界ではちょと有名な本だと思いますし*1、なによりも「黄金律」のデーモン・ナイトだから読んだわけです。黄金律は傑作だと思っているので、同様な感想を思てるかと思って読んでみたんですが、その結果の感想はちょっと微妙。
興味深くないわけではないのですが、面白いとは言いかねるというものでした。
 
もともと色んな媒体に発表された文章を集めたものなのですが、単に集めましたというだけじゃなくて、まとめて再構成しています。
まるで複数の短編をまとめて長編へと再構成した作品(スタージョンの「人間以上」とか、セイバーヘーゲンの「バーサーカー」とか)のようですが、残念ながら小説とは違って、発表された時と場所から切り離すことは、批評から何かを奪ってしまっているように感じます。
 
小説も批評も、どちらも現実世界について何かを語るために文章の中で独自の世界を築くものですが、しかし現実を再構成し仮想の現実を内部で作り出すことで間接的に現実を語る小説とは違い、現実との対話を直接取り扱う批評にとって、初出の情報自体も、少なくとも何十年も後に読むのならば、重要な情報であると思うのですが、それがはぎとられてしまっているのが勿体ないと感じます。というか、一章の中の、流れが続いている(ように再構成されている)文章の中で執筆年代が変わっていったりするように感じるのが、どうにも靴の中の小石のようで、歩みを止めるほどでなくてもどうにも気になって仕方なくなります。
 
本の最後に「何章の一部は何という雑誌の何号に最初に掲載されました」云々というのが一杯書かれてますが、それじゃ明らかに不十分です。そんなことをするより、各文章の頭にちゃんと初出の情報をのっけてほしい。60年もたってから当時出版されていたSF小説(現在まで残っていないものが多し)について書評をわざわざ読むのは、まさに「当時」を知りたいがゆえになのになぁ。

*1:少なくとも俺はかなり以前から知っていたという個人的な理由によりそう判断。

「神曲ができるまで」

井上ヨシマサというとAKB48グループの色々な曲の作・編曲を手掛けている作曲家さんですが、実は80年代から活躍していた方だったそうです。この本はその自伝です。

神曲ができるまで

神曲ができるまで


ハロウィン・ナイト STAFF Ver. / AKB48[公式] - YouTube
この「ハロウィン・ナイト スタッフversion」においてセンターで踊っておられるアフロの御仁でございます。

正直、買う気はなかったのですが、宣伝の為になのか出られていたラジオを聞いた翌日に本屋に行ったら見つけてしまったので、まあこれも縁かと買ってみました。1000円と安かったし。

自伝ですが、文章からするとおそらく口述筆記なのでしょう、たぶん。帯には秋元康の「井上ヨシマサは天才である」という言葉が書かれてます。秋元康は高校生の時にラジオの構成作家になりましたが、井上ヨシマサさんは中学生の時にアイドルジャズバンドの一員としてプロデビューをし、その後も高校中退して音楽で食っていく道を探って、二十歳そこそこの頃に作曲家の長者番付に入っていたそうで*1、天才かどうかはわかりませんが早熟の才人なんでしょう。で、その才人の自伝なのですが、秋元康と初めて仕事をしたのが1994年、28歳の時で、この150ページ無い短い本の46ページ目、約3分の1のところです。ここまでは全然、AKBに触れていないのですが、ここから3分の2ではどんどんAKBに触れていきます。その為、正直、この本のバランスが悪く感じられました。

勿論、私がこの本を買ったのは著者がAKBの作・編曲家であったからなので、AKBに触れてくれるのは良いのです。というか、一杯触れてくれたらいいのです。ですが、建前的にはこの本は自伝でありAKBについてではありません。なので大島優子の「泣きながら微笑んで」におけるエピソード*2とかもあったりはするのですが、これがそんなに深くはならないのです。AKBヲタ的には物足りない。なのにあまり一般知名度がないようなメンバーの名前が説明抜きで出てくるして、非ヲタの読者にとってはわかりにくい、というより置いてきぼり感もあるのではないかと思ってしまいました。一応、建前としては誰でもが対象なのに、実際には「ぶっちぇけ、AKBヲタですよね、皆さん」という感じの文章があったりするわけです。けれどでも、AKBヲタが本当に求める方向では書かれていない、なぜなら作曲家の自伝という建前だから。バランスが悪い。いや、現実的にはこの本を買う人の大半はAKBヲタでしょうから、それを前提にした文書は当然なんでしょうが、だとするならもうちょっと「AKBについて」であってくれたらいいに。バランスが悪い、あるいは狙いがニッチ過ぎて私が外れてしまっているだけかもしれませんが。このバランスの悪さ、あるいは何かずれている感はAKBがらみだと以前にもこの本で感じました。

AKB48とブラック企業 (イースト新書)

AKB48とブラック企業 (イースト新書)

タイトルからするとこれはAKBがブラック企業だと批判している本であると思われるかも知れませんが、実はそうではなく...AKBのメンバーの労働環境が厳しいという指摘はあったりするのですが、しかしAKBがブラック企業だと言っているどころか、ブラック企業についての批判とAKBの昔の公演曲についての解説が混在し、辛い事があってもAKBの曲を聴いて励まされたりするとか語っていたりするという、何のためにこんな事をしたのかよく分からない非常に混乱させられる本なのです。ここ数年でAKBヲタになった私としては公演曲や昔のことを教えてくれた本でしたので良かったのですが、AKBに興味がなくてブラック企業についてだけ興味があった人達からすると非常にうっとうしい本だと思います。そしてまた、AKBについてだけ興味ある人達からすると、ブラック企業についての要らん文章が多いし。ブラック企業とAKB、売れそうなネタを二つを混ぜて本にしたらもっと売れるんじゃないだろうかという企画はわかるんですが、編集の方は中身についてこれで良いと思ってたんでしょうか?個人的には非常に楽しい本だったのですが。

*1:昔はそういうのが公表されていたんですなぁ。

*2:0048から入った私としてまして、まさに「優子さん!」なエピソードで良かったです。