P.E.S.

政治、経済、そしてScience Fiction

マンキュー:ケインズならどうしていただろうか?

マンキューのニューヨークタイムズへの寄稿です。彼のブログで書いてた連銀によるターゲットとかも含めて、まあ色々語っていてはいますが、結局なにか内容のあるものじゃないです。まあ、クルーグマン等、財政支出増へ向けて勢いづく左派へ、右派から嫌味の一つも言ってやりたい、あっ、でも俺って結構穏健ないい人のイメージで売ってるからニューヨークタイムズであんまり露骨な事も書けないし、だからまあ抑えた思慮深い感じでいってみるか、みたいな文章です。
ケインズならどうしていただろうか?  グレゴリー・マンキュー 2008年11月28日
経済が直面する問題を理解する為にすべての経済学者の中から一人だけ選べということになるなら、まず間違いなくその経済学者はジョン・メイナード・ケインズになるでしょう。ケインズは50年以上も前に亡くなっていますが、不況と恐慌に関する彼の診断は現在のマクロ経済学の基礎となっています。彼の洞察が、我々の対峙する挑戦を理解する助けとなっているのです。
ケインズによると、景気停滞の根本の原因は、総需要です。財とサービスへの需要の合計が落込んだ時、経済全般で売上の低下が起ります。売上の低下は生産の削減と労働者のレイオフを引き起こします。失業率の上昇と企業利益の低下が更に需要を引き下げて、アン・ハッピー・エンディングへ向けてのフェードバック・ループが始まります。
ケインズ理論によると、何らかの事態や政策により総需要が増加してはじめて、その状況が反転します。今現在の問題は、その需要の増加が起りそうなところがどこにもまったく見当たらない事です。
経済の財やサービスの生産は、伝統的に四つの要素に分類されます:消費、投資、純輸出、そして政府購入です。需要のどんな増加もそれら四つのうちの一つからやってくることになります。しかしそのそれぞれについて、支出を下げる強い力が働いているのが現状です。
消費The Conference Boardは消費者信頼感が記録的な低さにあるとしています。消費者がなぜそんな風に心配しているのかを理解するのは簡単です。住宅価値は減少し、401(k)の収支は悪化し、失業は上昇しています。多くの人にとって、経済の不安感はかつて経験したどんなものよりずっと大きいのです。新しい家や車、洗濯機など、今買わなくてもいいものはしばらく待っておこうというのは、非常に当たり前の事でしょう。
貯蓄が増えるのは、全然悪い事ではありません。多くの経済学者が長い間、合衆国の貯蓄率が国際的にも、歴史的にも低いことを嘆いてきました。
しかし、経済全体にとって、不況というのは人々が貯蓄を始めるのにベストな時ではありません。ケインズ理論は「倹約のパラドックス」のことを説きます。もし全ての人がもっと貯蓄しようとすると、すぐさま起こる事は、総需要の低下と国民所得の低下です。そして、所得の低下により、だれも貯蓄の目標を達成できなくなるわけです。
投資:通常の場合、消費の低下は投資の増加によって補われます。投資は、ビジネスからの工場や設備への支出と、人々の新しい住宅建設の支出からなります。しかし、いくつかの要素が投資支出の増加を妨げています。
そのもっとも明らかな要素は、住宅市場の現状です。過去3年間で、住宅への投資は42%も低下しました。住宅価格はまだ下がりつづけていますから、新しい住宅の建設が今後数年のうちに需要の力強い源となる事はなさそうです。
ビジネスからの投資はこのところ、住宅投資よりは力強くありました。しかし近い将来の内に他の落ち込みを埋められるほどの増加は起りそうにありません。証券市場の落ち込みもあって、企業の債券の金利は上がり銀行システムは崖っぷちでよろめいています。新しいビジネスプロジェクトの為の融資は簡単ではありません。
純輸出:しばらく前まで、世界がアメリカをひどい落ち込みから救ってくれるかのように見えました。2004年3月から2008年3月まで、他の主要な通貨の平均値に対してドルは19%も落ち込みました。合衆国での外国財の価格上昇と、外国でのアメリカの財の価格低下から、この通貨の減価は輸入を減らし、輸出を増加させました。過去3年で、実質純輸出は2500億ドルも増加したのです。
しかしこれからの数ヶ月間で、状況は逆転しそうです。合衆国の金融危機が世界中に広まるにつれ、動きの速い国際資金が安全な避難先を目指すようになりました。そして皮肉な事に、その避難先が合衆国なのです。3月以降、ドルは19%も増価しています。これが輸出ブームに冷や水を浴びせてしまうでしょう。
政府購入:よって、需要増の希望が持てるのは政府だけとなります。インフラ投資増への要請はケインズ経済学の教えるところとも合致します。原理的には、政府の使った全ての1ドルは、もしそれによって経済が活性化し消費者と企業からの支出を促進できれば、国民所得を1ドル以上増加させることができます。報道からすると、これがこれからやって来るオバマ政権の考えている計画のようです。
しかしうるさいハエが飛び回っています(The fly in the ointment.追記:himaginaryさんによりますと、これは「玉に瑕」という意味という事です。有難うございます!)。いや、あれは象でしょうか*1。それは長期の財政事情です。政府支出の増加は短期的には問題の解決となるかもしれませんが、それは財政赤字を増加させます。ベービー・ブーマー世代はいま退職し始めていて、社会保障とメディケア(高齢者対象の政府による健康保険。)の支払いを受け取り始めてています。政府負債のどんな増加も、これからのこういう支払いのための財源問題を更に難しくしてしまいます*2
ケインズ経済学者は経済が短期的な問題に見舞われている時にこういう長期の懸念を大抵、軽視してきました。「長期的には、我々はみんな死んでいる」、というのはケインズの有名な言葉です。
しかし我々が今直面している長期的な問題は、かつてケインズが想像したよりものよりもはるかに深刻なものです。巨額の政府債務を次の世代に受け継がせる事は子供のいない人たちには魅力的に見えるかもしれません(ケインズも子供はいませんでした*3)。しかしその他の人達は、長期的に我々が死んだ時、我々の子供達や孫達が我々の財政の遺産に取り組まなければならない事を知って、そうそうのんびりした気分にもなれません。
では、どうするべきなんでしょう?多くの経済学者は、未だに連邦準備銀行がなんとかしてくれる事を期待しています。
通常ならば、連銀は利子率を引き下げて総需要を増加させます。低利子率は人々と企業に借り入れと支出を促させます。そしてそれは証券価値を引き上げ、外国資本の眼を他の投資先に向けさせる事で、ドルを為替市場で減価させます。消費、投資、純輸出の全てが増加するわけです。
しかし、今は通常の時ではありません。連銀はすでにフェデラル・ファンド・レートを1%にまで引き下げいています。もう0%の限界近くにです。我々の中央銀行はすでに弾切れを心配されているのです。
幸運にも、連銀には秘密兵器があります。長期利子率のターゲットを設定できるのです。一定の間、利子率を低く固定する事を約束することができるのです。一番重要なことは、連銀は、期待を操作し、長期にわたるデフレを防ぐ為に出来る事は何でもやると市場に納得させることができるよう試してみる事ができることです。連銀の先週の住宅ローンを購入するという決断は、連銀のクリエイティブに動く意思を見せ付けました。
金融と財政政策により深刻な落ち込みを上手く避ける事ができるのかどうか、断言するのは難しい事です。しかし事態が進展していく中で、連銀と財務省の政策立案者達がケインズのレンズでもって事態を観察していく事は間違いありません。
1936年、ケインズは「どんな知的な影響からも逃れていると信じている実務的な人間も、普通はすでに亡くなった経済学者のだれかの奴隷である」と書きました。2008年、もっとも高名なすでに亡くなっている経済学者のうち最も高名なのが、ケインズその人なのです。

*1:おそらくここでその意図はないのでしょうが、象は共和党のマスコットキャラです。ちなみに民主党はロバです。

*2:この手の、べビーブーマーが退職するから社会保障支出と医療支出が増加するので大変だ!(だから社会保障制度をつぶさなければならない!)と叫ぶのは、右の人たちの定番です。最近は下火になりましたが、2005年にブッシュが社会保障制度改革として個人口座とかを提案していた時には、こういう右の叫びにたいして左の、たとえばクルーグマンあたりが社会保障制度の方は今度数十年問題がないし、医療支出の方は確かに問題だがその解決は国民皆保険だと反論し、それを受けてまた右がベービーブーマーが退職するから社会保障と医療支出が大変だ(だから社会保障制度をつぶさなければならない!)と繰り返し叫んで、左がキレルというのは定番の漫才でした。

*3:ケインズはバイでしたしね。